医療AIについて話すとき、多くの場合、「精度」や「機能」の話になります。
どれだけ正確にまとめられるか。どれだけ多くのことが自動でできるか。
もちろん、それらは重要です。
しかし実際に現場で使われるかどうかは、それだけでは決まりません。
開発と試行錯誤を重ねる中で、私たちが何度も目にしてきたのは、「賢いのに使われないAI」でした。
精度が高い=使われる、ではなかった
たとえば、かなり高い精度でまとめられるAIがあったとします。数字としては十分に見えます。
ですが医療の現場では、ほんのわずかなズレが不安につながります。
微妙なニュアンスの違い。小さな情報の抜け。
それが、次の診療や判断に影響する可能性があるからです。
精度は前提条件です。けれど、それだけで定着するわけではありませんでした。
診療の流れは、想像以上に繊細だった
もう一つ学んだのは、診療の流れの繊細さでした。
私たちが想像していたよりも、診察という時間は、テンポと集中で成り立っています。
わずかな待ち時間でも、現場では長く感じられることがありました。
その数秒が、会話のリズムを止め、思考を中断させることもあります。
医療AIにとって速さは、快適さの問題ではなく、診療の流れを壊さないための前提条件でした。
邪魔をしないという設計
使われないAIには、共通点がありました。それは、「操作を覚えさせる」「画面を見続けさせる」「一度立ち止まらせる」といったことでした。
診療は「思考」と「対話」が同時に進む仕事です。
そこにもう一手間を挟むと、現場ではすぐに違和感になります。
医療AIは、目立つ存在である必要はない。
むしろ、いないように感じられることのほうが重要でした。
主導権を奪わないこと
もう一つ、大切にしてきたのは、医師の主導権を奪わないことです。
AIが勝手にまとめる。AIが勝手に補完する。AIがそれらしい判断を示す。
このような機能は、便利に見えても、そこには小さな不安が残ります。
医療では、最終的に判断するのは人です。
だからこそ、AIは前に出すぎない。整え、補助し、支える存在であるべきだと考えました。
導入を左右するのは「安心感」
実際に導入が進むかどうかを分けたのは、スペックではなく、安心感でした。
「流れは止まらないか?」「余計な作業は増えないか?」「最終的な責任は明確か?」等の不安を越えられなければ、どれだけ優れた技術でも広がりません。
私たちが辿り着いた視点
開発の過程で、何度もkanaVoの方向性を見直しました。
その中で見えてきたのは、医療AIに必要なのは、高機能や派手であることよりも、診療の流れを壊さないことだということでした。
邪魔をしないことこそ、医療AIの芯なのかもしれません。
医療者が本来向き合うべき相手は、パソコンでも、AIでもない。
医療AIは、医療者と患者のあいだに静かに存在する。
それくらいが、ちょうどいいのだと思っています。