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コラム

理想だけでは、医療AIは作れなかった

前回までで、kanaVoの背景や考え方について書いてきました。
ただ正直に言えば、考え方が固まったからといって、すぐに形になったわけではありません。
むしろ、そこからが本番でした。
今日は、kanaVoが生まれるまでの試行錯誤についてお話ししたいと思います。

最初は「アルゴリズム」でいけると思っていた

開発当初の私たちは、ルールベースのアルゴリズムで医療文書を整理できないかと考えました。
一定の順番で話してもらい、決まった構造に沿って整理する。
理屈としては、もっとも整った方法です。
しかし、実際に自分たちで試してみると、すぐに無理だと分かりました。
診察の中で「今はこの項目の話をしよう」「次はこの順番で話そう」等を考えながら診療するのは、現実的ではありません。
業務は確実に滞ります。
それでは本末転倒でした。

次に、機械学習へ舵を切った

次に挑戦したのが、機械学習でした。
大量のデータを学習させれば、ある程度の精度に到達できるのではないかと考えたのです。
しかし、実際にとりかかり直面したのが、多様性の壁でした。微妙な言い回しの違い、診療科ごとの文化、外来と在宅の違い、同じ医師でも日によって変わる話し方等に対応するのは簡単ではありませんでした。
精度は上がる。でも、「医療で安心して使える」と言える水準をクリアするのは、想像以上に難しいものでした。
試して頂いた先生方の反応も同じでした。

最後に辿り着いたのが、LLMだった

最終的に辿り着いたのが、いわゆる大規模言語モデル(LLM)の活用でした。
最初は、正直に言って、精度も速度もおぼつきませんでした。
それでも、「これは可能性がある」と感じました。
リリース当初、その可能性を信じてくださった先生がいます。今期、強くお付き合いくださったその先生の存在がなければ、今のkanaVoはありません。
現場で何度も試し、率直なフィードバックをいただき、修正を繰り返す中で、精度も速度も大きく向上していきました。

理想と現実のあいだで

ふりかえってみると、アルゴリズムと機械学習ではなく、最初からLLMに取り組むべきだったのではとも思います。
一方で、医療の現場に本当に合う形を見つけるまでには、遠回りが必要だったのではとも感じています。
「遠回り」も含めた一覧の試行錯誤を通じて分かったのは、「医療AIは、賢さを競うものではない」ということです。
必要なのは、「診療の流れを止めない軽さ」「外来でも待たせない速さ」「医師の思考を奪わない設計」でした。

完璧ではない。でも、前には進んでいる

kanaVoは、まだ完成形ではありません。
それでも、「これなら使える」と言っていただける瞬間が、少しずつ増えてきました。
理想だけでは作れない。
でも、理想がなければ続けられない。
そのあいだを、今も探り続けています。